配偶者の不倫相手だけに慰謝料請求することはできるのか

文責:所長 弁護士 石田俊太郎

最終更新日:2025年01月07日

1 不倫慰謝料は不倫相手だけでも請求可能

 夫や妻が不倫したとき、夫や妻には慰謝料請求をせず、その不倫相手のみに請求できるのでしょうか?

 

⑴ 不倫は共同不法行為

 慰謝料を不倫相手のみに請求できるのか検討するには、不倫の慰謝料請求権の法的な意味や性質を理解する必要があります。

 不倫の慰謝料請求権は、民法上の「不法行為にもとづく損害賠償請求権」の1種です。

 不倫(肉体関係をともなう男女関係)は、法律上認められていない違法行為です。

 そして、配偶者と不倫相手は、故意や過失によって違法行為である不倫をしているので、不法行為が成立します。

 そして、不倫は配偶者と不倫相手の2人が共同して行うので、「共同不法行為」となります。

 共同不法行為の場合、不法行為にもとづく損害賠償請求権は、共同不法行為者の「不真正連帯責任」になります。

 

⑵ 不真正連帯責任とは

 不真正連帯責任とは、どのような責任なのでしょうか?

 これは、債務者の全員が、同じだけの責任を負うものです。

 1人1人の債務者は「私は半分しか負担しません」などと「負担部分」を主張することができません。

 そこで、債権者は1人1人の債務者に対し、全額の支払いを請求できます。

 ただし、請求できるのは債権の満額までであり、誰かから満額の支払いを受けると債権は消滅します。

 また、債務者は債権者に対しては負担部分を主張できませんが、連帯債務者間では「負担部分」があるので、どちらか一方が負担部分を超えて支払った場合、他方に対して、負担部分を超える金額の返還を請求できます。

 このことを「求償」と言います。

 

⑶ 一方だけに慰謝料請求もできる

 それでは、不真正連帯債務の場合、不倫相手のみというように、一方だけに請求することができるのでしょうか?

 不真正連帯債務では、1人1人の債務者が全額の責任を負い、債権者に対しては自分の負担部分も主張できませんし、債権者は連帯債務者のどちらに対しても、全額の支払いを請求できます。

 どちらを請求先に選ばなければならないという決まりはないので、自分の選んだ債務者のみに請求することも可能です。

 以上より、不倫の慰謝料請求で、不倫相手のみに全額の慰謝料請求することに、法律的には何の問題もありません。

 配偶者には1円も請求しなくても良いので、相手から「先に配偶者に請求して下さい」などと反論されることもありません。

2 不倫相手に慰謝料請求する方法

 不倫相手に慰謝料請求をするとき、具体的にどのような手順で進めれば良いのか、ご説明します。

 

⑴ 内容証明郵便で請求する

 慰謝料請求をするときには、不倫相手に対して「内容証明郵便」を使って慰謝料の請求書を送ります。

 内容証明郵便とは、郵便局と差出人の手元に発送したのと全く同じ写しが残る郵便です。

 このことにより、確実に慰謝料請求をした証拠を残せます。

 ポスト投函はされず、簡易書留と同じように受取人に手渡しされます。

 また特殊な書式になっており、未払い金の請求書を送るときによく利用されるので、受け取った人がプレッシャーを感じて支払いに応じてくることも多いです。

 慰謝料の請求書を送るときには、請求金額と支払期限を記載して、もし支払いがなかったら民事訴訟等を起こす予定があることなどを書いておきましょう。

 

⑵ 交渉する

 不倫相手に内容証明郵便を送ったら、相手から返答があるのが通常です。

 一般的に、請求通りの金額をそのまま支払ってくる不倫相手は少なく、減額を提案されたり「支払いができない」と言われたりすることが多いです。

 相手から返答があったら、慰謝料の金額と支払い方法についての交渉を開始します。

 お互いに合意ができれば、その内容で「合意書」と作成して、合意内容に従って慰謝料の支払を受けます。

 これに対し、内容証明郵便を送っても、相手が受け取らないケースがあります。

 内容証明郵便はポスト投函できないので、相手が受け取らない場合には、差出人の元に郵便が返送されます。

 その場合、一度は普通郵便で同じ内容の郵便を送ってみるのが1つの方法です。

 相手が忙しくて郵便を受け取れていない可能性もあるからです。

 また、電話やメールを知っている場合には、慰謝料の請求書を受け取るように連絡してみる方法もあります。

 

⑶ 訴訟を起こす

 相手と話合いをしても合意ができない場合や、相手が故意に郵便を受け取らない場合、返答してこない場合には、それ以上任意での支払いを求めても無駄なので、訴訟を起こす必要があります。

 この場合の訴訟は「慰謝料請求訴訟」です。

 訴訟では、不倫相手と配偶者との肉体関係を証明できたら、裁判所が不倫相手に慰謝料の支払い命令を出してくれます。

 相手が判決に従った支払いをしない場合には、相手の財産や給料を差し押さえることも可能です。

3 不倫相手に慰謝料請求するときの注意点

 不倫相手に慰謝料請求するときには、以下のような点に注意が必要です。

 

⑴ 事前に肉体関係の証拠を集める

 配偶者が不倫しているに違いないと思ったとき、証拠もないのに不倫相手に「不倫しているでしょう?」「慰謝料を払って!」と言ってしまう人がいます。

 しかし証拠がなかったら、相手からは「不倫なんてしていません」としらを切られてしまいますし、配偶者と不倫相手が一緒になって「被害妄想」と言ってくることも考えられます。

 さらに不倫相手から「名誉毀損」などと責められるケースも多いです。

 慰謝料請求をする際、必ず事前に相手方らの「肉体関係」を証明できる証拠を集めておくべきです。

 たとえばメールや写真、携帯電話の通話履歴、クレジットカードの利用履歴や各種の領収証などが証拠になりえます。

 効果的な証拠の集め方がわからない場合、弁護士が相談に乗りますのでご相談ください。

 

⑵ 離婚しない場合、慰謝料を減額される

 不倫相手のみに慰謝料請求したい方は、配偶者とは離婚しないことも多いです。

 その選択はもちろん可能ですが、慰謝料を減額される可能性が高いので注意が必要です。

 不倫の慰謝料は、不倫された夫婦が離婚する場合には高額になりますが、離婚しない場合には低額になるからです。

 離婚も別居もしない場合、慰謝料は100万円以下になることが通常です(もちろん、様態によって異なります)。

 離婚しないなら、不倫相手に慰謝料請求をしても「50万円なら支払います」などと言われることも多いですし、納得できずに裁判を起こしてもやはりそのくらいしか支払ってもらえない可能性もあります。

 

⑶ 求償権の行使について

 不倫相手に慰謝料請求したいという方は、配偶者には負担をさせたくないと考えていることが多いです。

 その場合、不真正連帯債務の「求償権」に注意が必要です。

 求償権とは、連帯債務者が自分の負担部分を超えて支払いをした場合などに、他の債務者に返還を求める権利です。

 不真正連帯債務の場合、1人1人の債務者は債権者には負担部分を対抗できませんが、債務者間では負担部分があるのです。

 そこで、不倫相手が自分の負担部分を超えて慰謝料を支払った場合、不倫相手があなたの配偶者に求償権を行使して、支払いすぎた慰謝料を返還するように言ってくる可能性があります。

 そうなると、わざわざ不倫相手1人に慰謝料請求した意味がなくなってしまいます。

 そこで、不倫相手と慰謝料についての合意をするときに「求償権を行使しない」という条項を入れましょう。

 示談するとき、必ず求償権についての話も持ち出して相手を納得させ、示談書に盛り込んでおくべきです。

 

⑷ 時効について

 不倫の慰謝料請求権には「時効」があることにも注意が必要です。

 不倫が発覚すると、慰謝料請求をしようかどうかで迷うことも多いですし、証拠集めに時間がかかるケースもあります。

 時間が経過すると「もう辞めておこうか」と考え始めることもよくあります。

 そのようにして時間が経つと、慰謝料の請求権に時効が成立してもはや慰謝料請求できなくなってしまう可能性があります。

 不倫の慰謝料請求権は「不倫の事実」と「不倫相手」を知ってから3年間ですから、不倫に気づき、不倫相手の素性がわかったらできるだけ早く請求すべきです。

 時間が経過すると証拠も集めにくくなるので、その意味でも慰謝料請求は早めにした方が有利です。

 

⑸ 慰謝料をいくらに設定すべきか

 慰謝料請求をするとき、請求金額をいくらに設定すべきか迷われる方がとても多いです。

 慰謝料の請求金額を決めるためには、まずは不倫慰謝料の相場を把握しておくべきです。

 不倫の慰謝料の相場は、だいたい50万円~300万円です。

 慰謝料が高額になるのは、夫婦が離婚する場合や夫婦の婚姻期間が長いケースです。

 事案にもよりますが、婚姻期間が10年くらいの夫婦が離婚する場合、慰謝料はだいたい300万円程度になりますが、婚姻期間が1年や2年の場合、離婚しても慰謝料は100万円~200万円程度にしかなりません。

 離婚しない場合には100万円を切ってくることが多いです。

 

⑹ 相手から減額を主張される

 慰謝料の相場を調べて相手に請求しても、相手が満額払ってくれることは少ないです。

 多くの場合、相当大幅な減額を主張されます。

 たとえば、300万円請求しても「100万円しかし払えません」と言われますし、500万円請求しても、「200万円が限度」などと言われるものです。

 そこで、慰謝料請求するときには、減額を見越して多少高めの金額を請求すべきともいえます。

 たとえば最低でも100万円支払ってほしいとき、100万円ジャストを請求すると100万円は支払ってもらえないので200万円を請求するとか、最低でも200万円支払ってもらいたいなら300万円を請求するなどの対処が必要です。

 

⑻ 相手から分割払いを提案される

 慰謝料は一括で支払われるとも限らないことにも注意が必要です。

 慰謝料請求をするとき、請求者は当然一括で支払ってもらえると思っていることがありますが、不倫相手にお金がなかったら一括では払えません。

 相手に無理矢理借金させたり実家に援助を求めさせたりすることはできないのです。

 相手から「支払いができないので、分割払いをさせて欲しい」と提案されるケースも非常に多いです。

 そのようなときには、どこまでであれば分割払いに応じられるのか、状況に応じた判断をすべきです。

 あまり慰謝料支払い期間が長くなると、途中で支払われなくなるリスクも高まりますし、いつまでも慰謝料問題を引きずらなければならないストレスもかかります。

 また、分割払いにするときには、必ず合意書を「公正証書」にしましょう。

 分割払いにすると、相手が不払いを起こす可能性が高くなりますが、公正証書にしておけば、相手が支払わなかったときにすぐに差押によって回収することができるからです。

4 上手に不倫慰謝料を請求するなら弁護士へ

 不倫相手に慰謝料請求をするとき、まずは内容証明郵便の請求書を作成しなければなりませんが、自分ではどのような文面にすれば良いのかわからない方も多く、そもそも内容証明郵便の作成方法に自信のない方もおられます。

 また、不倫の慰謝料請求では、不倫相手と請求者との間に感情的な対立があるので、交渉時に激しいトラブルになってしまうこともあります。

 かといって感情にまかせて相手の職場に行ったりネットに「あの人は不倫している」などと書き込んだりすると「名誉毀損」になってしまう可能性もあります。

 このようなリスクを負わずに上手に慰謝料請求を行い、なるべく高額な慰謝料を回収するには、弁護士に依頼する方法がもっとも効果的です。

 当法人でも不倫の慰謝料請求に取り組んでいるので、お悩みの際には是非一度ご相談ください。

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